肛門痛(排便時の肛門の痛み)

肛門痛とは

肛門痛は大きく分けて、病変の特定が明確な症候性肛門痛と、原因が特定できない無症候性肛門痛の二つに分類されます。肛門痛の主な症状は、チクチクとした痛みやズキズキした痛み、ジーンと染みるような痛みを伴うことが多いです。一方直腸痛の場合は、ズーンとした重苦しい鈍痛や神経痛のような発作性の痛み、肛門内にボールがはまっているような違和感、残便感などになります。
症候性肛門痛の場合は、原因や治療法が確立されていますが、無症候性はわからないことが多く、治療法も確立されていません。


病変のある肛門痛(症候性肛門痛)

症候性肛門痛は、病変の場所が歯状線より下に位置しているときに起こります。痛みの特徴を見ることで、ある程度疾患を特定することが可能です。
症候性肛門痛の原因となる主な疾患は以下の通りです。

痔核

痔核とは、主に肛門の外側に小豆大から小指頭大のしこりが突然形成される疾患です。発症すると、ズキズキという痛みによって座ることが困難になります。
痛みを伴う痔核には血栓性外痔核と嵌頓痔核の2種類があり、前者は急にスポーツをしたり、深酒の後に起こることが多い痔核です。一方後者は、普段から脱肛があり、ある日を境に急に大きく膨れ上がって肛門内におさまらなくなった状態の痔核です。嵌頓痔核になると、肛門部に激痛が走るようになり、痛さのあまりに一晩中眠れないこともあります。

肛門周囲膿瘍

肛門周囲膿瘍とは、歯状線にある肛門小窩が細菌に感染することで、肛門周辺に膿がたまった状態の疾患です。主な症状はズキンズキンという痛みのほかに、発熱を伴います。重症になると重苦しい痛みのために不眠に陥ることもあります。膿を排出すると急に症状が改善します。

肛門小窩炎

肛門小窩炎とは、肛門小窩が炎症を起こす疾患で、長時間座っていると鈍い痛みが起こり、座り続けることが困難なほど耐えられない重い感じを伴うこともあります。痔ろうがくすぶっている場合も同様の症状が現れます。

裂肛(切れ痔)

排便時に痛みが走った場合は、裂肛(きれ痔)が考えられます。出血を伴うことが多く、下痢の際には沁みるような痛みを伴います。

肛門がん・痔ろうがん

肛門がんを発症すると、肛門周辺に硬いしこりができて、一定の強い痛みを伴うようになります。痔ろうにがんができる痔ろうがんの場合も同様です。痔ろうがんは、長期間痔ろうを治療せずに放置することで引き起こされることが多いです。


病変のない肛門痛(無症候性肛門痛)

無症候性肛門痛の中では、特に一過性直腸肛門痛が注目されています。一過性直腸肛門痛を発症すると、直腸付近に強い痛みを感じ、夜間になると直腸から肛門にかけて神経痛のような激痛を起こし、朝方になると急に痛みが消失する特徴があります。その他では、無性に排便欲が高まることもあります。
肛門挙筋症候群や尾骨痛でも類似した症状があり、立ったり座ったりすると肛門に痛みが走ります。また、肛門が開く感じを伴って不眠に陥ることもあります。過敏性腸症候群の場合は、肛門の奥に痛みが生じる特徴があります。陰部神経痛の場合は、肛門前方で左右の陰部神経に触れることで、鈍い不快な肛門痛が生じます。圧迫すると強い神経痛を伴います。原因は、肛門管の上縁部分で骨盤底を形成している肛門挙筋の痙攣や肥厚、直腸肛門自身の痙攣、脊髄の刺激などが考えられています。また、ストレスなど心因的な原因の可能性もあります。
無症候性肛門痛は検査をしても病変が発見されないため、複数の病院を転々とする傾向があり、医師に症状を訴えても真剣に受け止められないこともあります。

監修:横浜わたなべ内科・内視鏡クリニック 鶴見院 院長 石部 敦士

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